ようこそ、展示会!ビジネス・産業振興のために

一般社団法人日本能率協会
2016/03/09

セミナーで理解する。展示で実感する。『和食産業展2016』は、和食の「進化」に注目せよ!

生まれたときから顆粒出汁。得意料理を問われたら、肉じゃがではなくビーフストロガノフと言ったほうがウケがいいし、家ごはんなら煮物をつくるより、パスタをゆでた方がはるかにお手軽。そんな時代である。
和食が嫌いという人はまず聞いたことがない。しかし、本格的に家でつくるには知識も道具もなく、何より時間がかかって面倒くさい。こういった感覚は、多くの日本人が持っているのではないだろうか。

たとえば単身者世帯の増加や専業で家事を行う人の減少、さらには核家族化の急速な進行も見受けられる現在。その中で、時間や手間のかかる料理を家庭でつくる人も少なくなってきた。和食は、もはや自分でつくるものではなくなりつつあるのかもしれない。

家でつくらないから、外で。
和惣菜ビジネスには、大きなチャンスが眠っている。

img02

「いや、この状況こそ、逆にビジネスのチャンスなんです」とJMAの担当者は語る。「家庭でつくるのが面倒で難しいからこそ、外で買ったり、外食したりする。和の惣菜は特別高級なものではないわりに、お店ごとのオリジナリティも出せる商材ですから、企業にとってはやり方次第で利益を出しやすい事業になるはずです」

そんな業界へ向けた、和食産業展である。2016年のテーマは「和惣菜」。スーパーやデパートなどの惣菜販売店、飲食店などに向けて、食材や調理方法などを紹介する展示会だ

img03 img04

この和食産業展は『FOODEX JAPAN 2016』との同時開催なのだが、ジャンルをはっきり絞っている分、来場者の雰囲気が違う。あれこれ見ようと歩き回るより、自分たちの事業に直結するものへと脚を運ぶ。つまり目的が明確なだけに、本気度の高さを垣間見ることができた。
『FOODEX JAPAN 2015』(昨年度開催)のルポはこちら
そのひとつが、大きなステージで開催されている特別セミナーだ。テレビや雑誌などのマスコミで見たことのある有名店の料理長や代表、料理研究家などが講師となり、独自の体験やノウハウを直接聞くことができる。どのセミナーも多くの来場者で盛況だったのはもちろん、熱心に目をやり、耳をかたむけ、そしてメモをとる方の姿が印象的だった。確かに、こんな機会はめったにないはず。しかもセミナー自体は無料なのである。

意外と知らない和の基本。
“煮る”と“焼く”は水分のあるなしじゃない!

まず紹介するのは、築地の有名店『つきぢ田村』店主、田村隆さんのセミナーだ。テーマは「煮ると焼く」。スタンダードな和食の調理法と思われているが、実はちゃんと理解していないこれらについて、今回は実演調理をしながらの講演だった

img05

内容を紹介する前に、ちょっと読者のみなさまにも考えてみていただきたい。“煮る”と“焼く”の違いって何だろうか?ちなみに当ルポライターは、「煮るは汁気があり、焼くは汁気がない」だと思っていた。

が、田村さんの定義する正しい答えは、「冷ます工程があるのが煮る。冷まさないのが焼く」。“煮る”はグツグツ火にかけるが、ある程度火が通ったら火からおろす。蒸気が出ないくらいに冷めたら、再びに火にかける。この繰り返しが、食材の中まで味をしみこませる。一方で“焼く”は火にかけたらずっとかけたまま、冷まさない。食材の中に味をしみこませるのではなく、表面につけた味で楽しむものなんだそうだ。
この話に、目からウロコだったのは、料理素人のルポライターだけではないはず。多くのセミナー参加者が、おおっ!と感嘆の声を上げていた。

img06 img07

これ以外にも、さまざまな料理に役立つ情報が田村さんの講演には満載だった。ごぼうのささがきは太い方から削る方が柔らかくなること。落し蓋は真ん中に穴をあけたら意味がないこと。シイタケは十文字ではなく、さらに細かく目を入れた方が味がよくしみこむこと。理論と研究に裏打ちされた実践論は、仕事として料理に携わる方たちにとっても、「本当のおいしさ」を提供するために、すぐに活かせるものだったに違いない。 #

こだわりの食材と便利なマシン。
技術によって、“本物”はもっと広められる。

こうした知識を得たうえで、各ブースの展示を見て回る。最初に目を引いたのは鰹節。和食文化のド真ん中、出汁を支える食材である。

img08

img09 img10

メインで取り扱われているのは鰹節なのだが、少し魚の風味を強く出したいなら脂の多い鯖節、あっさりしたものなら鮪節といったように多くの種類が用意されていた。

担当者に鰹節に対する想いを聞いてみたところ、「私はやっぱり、本物の味を知ってほしいんです!」とアツい回答をもらうことができた。多くの人に“本物”を味わってもらいたいと共感してくれる飲食店を、今回探しに来たのだのと言う。

出汁のうまさこそ、和食の心臓。しかしたくさんの出汁をとるのは、事業者であれど、やっぱり大変なことでもあるわけで…。と、“本物”と“手間”の狭間で揺れていたときに見つけたのが、出汁とりマシンのブースだ。

img11 img12

その名も『つゆ・ダシます』(すがすがしいほどのダジャレである)。ネーミ
ングはポップだが、機能は本物。コーヒーメーカーの仕組みを応用し、自動で
大量の出汁をとり、さらにはそのままうどんやそばなどの合わせつゆをつくる
ことも可能なマシンだ。使う際も欲しい量だけ、ウォーターサーバーのように
ひとひねり。外食チェーン店などに導入予定らしく、ちょっとしたお味噌汁が
本格的な味になることが期待されているのだそうだ。

海外の和食に違和感があっても、それは、和食の進化のカタチである。

ここで、学びの大きかったセミナーをもうひとつご紹介しよう。平成27年度文化庁文化交流使(※)である柳原尚之さんによるセミナーだ。柳原さんは平成27年に、和食を世界に伝えていくために4か国を巡り、講演や実技指導を行った。その経験を基に和食の可能性についての講演だった。
※ 文化庁文化交流使…芸術家、文化人等の文化に携わる人々が指名され、世界の人々の日本文化への理解の深化や、日本と海外の文化人のネットワークの形成・強化につながる活動を行っている。

img13

その中で行われたクイズがとても参加者の興味をひいていた。2種類の紙コップに入った出汁を飲んでその違いを答えるというものだ。一方のコップに入っているのはとてもおいしい昆布出汁。もう一方は苦くて飲みづらくて、かすかに昆布の香りがするものだった。ではその違いは何なのか。素材の問題か、出汁のとり方が違うのか。さまざま思考を巡らせていたのだが、答えは「飲みづらいと感じる方は、硬水で出汁をとっている」というもの。日本は軟水だから、やわらかい味わいの水が和食の調理法と非常に相性がいい。しかし海外は硬水の国・地域が多いため、出汁や日本の控えめな味付けは硬水そのものの味に負けてしまい、調理が困難だったということであった。
だからといって、硬水はダメ!と、柳原さんは言い切らない。「硬水しかないような環境だからこそ、海外での和食は独自の進化を遂げられるのだ」という新しい可能性を提言する。
海外に行くと「これが和食!?」と思う料理に出会ったことはないだろうか。あれは、間違った知識や、扱い方の悪さばかりが要因なわけでは決してない。水や食材に合わせて味付けは変わるし、その国の人々の思考に合わせて調理法は変わる。そしてそれは悪い意味での変化ばかりではなく、「環境に合わせて和食が進化していることなのだ」という視点でとらえることが重要なのだそうだ。

国、時代、人。環境に合わせて、
和食はまだまだ変わっていける。

では、そんな環境に合わせて“進化”を遂げている食材や調味料の展示ブースへ。
最初に出会ったのは日本を代表する食材のひとつ、大豆製品を扱う企業だ。「この中で、“いちばん進化している”食材は何ですか?」と聞いたところ、あげたまのような小さく丸いものが出てきた。

img14

なんとこれは、直径1cmのがんもどき。高齢化社会のなかで、お年寄りにもっと食べやすい食材をという考えのもと、できるだけ小さくてやわらかいがんもどきを開発。こどもも食べやすいので、介護施設や学校給食の場で大きな需要があるのだとか。

ブースの代表の話では、「エンドユーザーと話ができることが、展示会に出展する最大の意義」とのこと。ニーズを直接聞き取ることで、また次の商品開発に活かす。そんな出展者のメリットを語る声を数多く聞くことができた。

img15

試飲が人を集めていたのは、白醤油のメーカー。調味料として一般的になりつつある、白だし醤油の元祖である。そもそも白だし醤油は、飲食店から「出汁をとる手間を省けるおいしい醤油がほしい」と、飲食店に言われたことから生まれたのだそう。これひとつで、出汁と醤油の味付けが一度にできる、本物のおいしさかつ便利に進化した商品なのだ。

img16 img17

そして試飲は、白だし醤油をお湯で薄めたもの。「え、それだけのことなのにこんなに人が?」という疑問も一口飲めば吹き飛んでいく。笑っちゃうくらいうまいのだ。まともな感想も述べられず、ただ「すごい!何かすごい!」と取材スタッフみんなが大笑い。担当者も「みなさんのそういう反応がね、うちの商品力を表してますよ」とニヤリ。

もちろん、出汁と同じく和食の主役とも言える醤油だって負けてはいない。350年続く、老舗の醤油メーカーのブースを訪れた。老舗ならではの「これぞ醤油」という雰囲気を想像していたところ、どっこいちょっと違う。そこに並ぶのは『スモークソース」や『トリュフソース』の文字だ。

img18 img19

洋風だなぁと思いつつ話を聞いてみると、「これこそ350年続く醤油メーカーの独自の進化」なのだと担当者は胸をはる。これまで積み重ねてきた商品の技術や知識を応用することで、今回生まれた一見洋風なソースたち。試食として差し出されたのも、チーズやローストビーフなどの洋風食材だ。しかし食べてみると全く逆。調和しているのに、「ちゃんと醤油」なのである。洋風の食材が日本で一般的になっている今、それらを和食として楽しむにはどうしたらいいだろうか。そんな考えが、新しい商品を生み、海外の食材も和食に変えてしまう、新しい進化が生まれているのだ。

img20

そういえば、セミナーでの田村さんの言葉が、ここであらためて思い出された。「調味料とか、時間とか、だいたいでいいの。だいたい。食べる人がおいしいと思うものがいちばん正しいんだから」。
和食とは伝統的で、ルールが厳しくて、難しいものだという気がしていた。が、本当はそうではないのかもしれない。日常的に食べるものだからこそ、日常が変わったからこそ、和食の在り方も変わるのだ。
“本物”は守りながらも、“昔のまま”でストップしていない。食材や時代、食べる人に合わせて、和食はどんどん進化できる可能性を持っているのだ。
セミナーで得た知識を、多くの展示で実感できる。このつながりが体現できる展示会だった。

『和食産業展 2016』
■会期 / 2016年3月9日~11日
■会場 / 幕張メッセ
■来場者数 / 3万6682人(3日間合計)
■出展者数 / 58

ページの先頭へ
< /body> < /html>