一般社団法人日本能率協会
2015/11/25

支えられる側と支える側に最適な医療・福祉の環境づくりを『HOSPEX Japan 2015』

そういえば最近、病院で泣いている子供をあまり見かけなくなった。少子高 齢化のせい? 確かに、それもあるだろうが。あの無機質で冷たいイメージがなくなったのも一因だろう。廊下も、待合室も、診察室も、そして病室も驚くほど明るい。病院はすっかり、今こうしてルポ原稿を書いている仕事場よりも(笑)、居心地のいい環境になっている。

今回で40回を重ねる『HOSPEX Japan』。今年は大きく分けて『病院・福祉設 備機器展』『病院・福祉給食展』『医療・福祉機器開発テクノロジー展』の3エリアで構成されている。

img02 img03 img04 img05

これまでにも、医療・福祉の現場の改善と最新化に大きく貢献してきた展示会とは聞いていたが、実際に会場に足を踏み入れてみると、驚くほど華やかで洒落た雰囲気。なるほど、今の病院が居心地の良い理由がわかった気がする。そんな最新機器・設備やソリューションが展示されている各ブースには、医療や福祉を現場で支える専門家や従事者が、熱心に話を聞き、話をする姿に遭遇した。この方面の知識は持ち合わせていないルポライターではあるが、展示会当日の様子を、少しでも分かりやすくお伝えしたいと思う。

img06

介護ロボットに必要なのは、パワーと優しさ

普段見られない最新機器を、見て、触って、体感できる。それが展示会の筆頭といえるだろう。CMなどでもよく見かけるようなヒト型に近いものから、夜間や個室における転倒などの事故・徘徊などの防止を目的とした人間の動き伝えるセンサーまで多種多様だ。ロボットというとついついパワーサポートがその目的と思いがちだが、介護される側の立場で、まさに痒いところまで手が届くようなアイデア商品が紹介されていた。

img07

例えば、赤外線を利用し室内のモニタリングができるセンサー。従来の監視映像と違い“人物のシルエットのみ”が画面に映る。シルエットといっても赤外線の写し出す被写体は細密で、十分に人物の動きが観察できる。つまり、生動を確認しながらも、表情や細かい所作などはシルエットだから、
プライバシーに配慮できる仕組みだ。「カメラで覗き見されているようで、恥ずかしい」という高齢者施設の入居者からの訴えは実際に多いらしい。「“監視するのではなく、見守る”そういった心使いも介護現場には必要です」と、話す担当者。なるほど、なんて優しい視点だろう。

img08 img09

ベッドからの移動はもちろん、最近では街でもよく見かけるクルマの乗り降りなど、いわゆる移乗介護はする側もされる側も負担が大きい。特にロボットの力が必要な分野だ。「介護従事者の身体的負担はもちろんのこと、人が力まかせに抱きかかえると、その緊張が要介護者にも伝わり、彼らにとって精神的に苦痛なのです」と話してくれたのは移乗ヘルパーロボットを開発する会社のスタッフ。そもそもモーションコントロールの会社だが、その技術を生かして介護ロボット市場へ参入した。要介護者をスリングシートごとベッドから持ち上げ、そのまま車椅子へと運んでくれる。実際、体験してみると、まるで“ゆり籠”に抱かれるよう。移動中は介護士役のスタッフとも会話が楽しめた。ロボットだと温もりがないような気がしていたが、それは大きな誤解だった。ロボットに力を借りることで、より人と人のコミュニケーションが図れるのだ。

img10 img11

最新テクノロジィとデザインの融合で、より働きやすい医療現場へ

“自然の中なら頑張れる”こんなコピーをかかげている医療用照明器具の会社を見つけた。うん?どういう意味だろうか、と好奇心を持って話を聞くと、最新の無影灯を紹介してくれた。

img12

従来のLEDから、ブルーライトをできる限りとりのぞき、より自然光にちかい状態で、医師や看護師達の目の負担を軽減させると同時に、赤みを強調するような無影灯にしているという。ちなみに、この会社は、無影灯だけでなく、手術室を“光”でトータルコーディネートしている。手術時間外は、室内照明をリラックスモーどや清掃モードなど、用途に応じて調節できるようにしているのだ。確かに、ときに長時間の集中作業におよぶこともある手術現場においては、最適な環境づくりが大切だろう。この試みには大いに注目が集まっていた。理事長、院長、事務長といったいわゆる偉い方々と思われる来場者も熱心に話に耳をかたむけていたのが印象的だった。

img13 img14

アメリカでシェアNO.1という外資系企業のブースでは、搬送用ストレッチャーから、ICU・オペ室のオペレーションシステム・画像処理・無影灯まで、あらゆる機器をトータルでプロデユースし提案していた。システムトラブルがあった場合、個々の機械が別会社だと混乱のもとになる。「“1聞けば10わかる”サポート体制を一人の担当者が行うのが現場のストレスを軽減することにつながります」と担当者はいう。まだまだ、日本でのシェアは低いが、専門展示会では、現場の医師ではなく事務方と直接交渉できる機会も多く、この場で大いにPRしたいと話してくれた。

img15 img16

トータルといえば、病院内のナースステーションをまるごと展示していた企業は圧巻だった。専門は事務機器と家具のメーカーだが、5~6年前に医療分野に参入したそうだ。「オフィス機器と大きく違うところは、開発者が、使う側の人間になれないこと。だからこそ現場の声を聴きフィードバックが大切。我々が培ってきたプロダクトデザインのノウハウを融合させ、今までにはない働きやすさを追求したい」と担当者は胸をはる。

img17 img18

例えば“点滴スタンド”。患者さんと看護師さんと両方が使いやすくデザインしてある。見た目も可愛く、数々のデザイン賞受賞も納得だ。細部へのこだわりと優しい視点が新鮮。もし入院するならばこんな設備の病院がいいな、なんて思わせるところが、なかなかニクイ。

img19 img20

時短革命!食事を作るのも、食べるのも楽しくなくちゃ始まらない

福祉・医療現場は慢性的なスタッフ不足だ。もちろん給食の現場も例外でなく、盛り付けの作業に35%もの時間を費やし、配膳の時間が一極集中する給食は、忙しさのピークに波があるとても非効率な現場だと聞いた。

img21 img22

そこで解決方法として登場したのが、安全性と効率化に成功したニュークックチルだ。ニュークックチルは加熱し急速冷凍した後、チルド保存したまま盛り付けを行ってしまう。それを配膳直前に容器ごと再加熱し提供できる仕組み。その仕組みを知ったところで、さっそく、配られていたニュークックチル製法のソーキそばを試食。豚の角煮は柔らかく、そばは出来たてのようにツルツルだ。うん、これなら沖縄出身の人が食べても大満足かも。

img23 img24

給食現場の少子高齢化や人材不足を、調理器具から解決しようと試る会社もあった。工場を移築したかのようなブースでは、次々と料理がつくられ、来場者が思わず、足をとめて見入ってゆく。煮る、焼く、揚げる、蒸すまでの全工程をシンクのようなカタチの器具一台でこなすのは見事だ。しかし、この調理器具が凄いのはそれだけじゃない。1°C刻みで温度調節ができ、常温から200°Cまで、たったの2分で温度をあげることができる。さらに量を計算しながら、火加減までも自動で調節する、まさにスーパーロボットなのだ。

img25

驚きを隠せず担当者にインタビューにすると、30年前には、すでにこの調理 法(スチームコンベンションオーブン)はあったそうだ。「当時は見向きもされ なくて…やっと活躍できる時代になりました。安心・安全・清潔・そして時短、すべてを解決します。それに従事者が、焼けどやケガをしにくく出来ています。医療・福祉の現場だけでなく、学校給食やホテルやレストランでもフル活用出来ますよ」今後も、積極的に展示会で実演し、PRしていきたいと語ってくれた。

img26 img27

充実したセミナーは、どれも盛況、早々に満席の教室も

テクノロジー・ソリューション・安全管理・看護・介護・福祉給食など11の分野でセミナーを開催。連日どこも満員で盛況だった。特に安全管理のセクション会場では、一般社団法人東京都臨床工学士会主催の医療機器情報コミュニケータ(MDIC)認定の更新ポイントが1セミナーに付き10ポイント付与され、MDIC認定制度に関わるとあり、早々と満席になった。

img28 img29 img30 img31

ルポライター自身も、取材のためにいくつかののセミナーを拝聴させてもらった。そのなかには、医療に従事する者でなくても、生活情報として役立つセミナーもあった。明日、日本を襲うかも知れない大災害に備えるのは、この国に住む者の使命。その意味でも、『医療施設におけるBCP~災害・非常事態でも機能する施設運営のために~』都立広尾病院院長・佐々木勝氏の特別講習は、心得ておきたい知識と情報の宝庫だ。災害非常時に病院でなにが起こるのか、本当に必要なものは何か、周辺地域の医療施設と人口の把握など、マニュアルを作るだけではなく、日頃から徹底的なリサーチとシミュレーションを繰り返すことが大切だと説く。院内はもちろん、院外にいる職員とその家族の非常時対策もかかせないと知った。こういった対策の徹底も、患者や働く者にとって安心して働き、治療に専念できる条件のひとつだと思う。

img32 img33

JMAの担当者に話しを聞くと、セミナーの聴講者数は年々増え、特に経営改善セッションや新規参入業者向けセミナーは好調らしい。「“医工連携”の発展に力添えが出来たら嬉しい」と言葉に熱が入る。うん、これぞまさにイノベーションの橋渡しだ!

img34

また、今年は、2回目の試みとなる地方自治体ブースへの参加が爆発的に増えているそうだ。なかでも福井県は、地場産業と医療が連携して大きな成果をあげているらしい。福井県といえばメガネと織物工業が盛んな土地。鯖江市の老舗メガネメーカーでは、50年ほど前から医大と連携し研究を重ね、眼科・脳外科・心臓外科の手術用ハサミ器具などにノウハウを提供。切れ味と耐久性。そして軽さ、バランスの良さで、これ以上のものはないと評価をうけている。こういったそれぞれの地方の地場産業が、今後大きく医療に貢献し素晴らしい成果をあげてゆくことにも期待したい。

img35 img36

ニュースなどでよく耳にするとおり、医療・福祉の現場は慢性の人手不足に悩んでいる。しかし、この先の日本は待ったなしで、超少子高齢化社会を迎える。医療・福祉従事者が働きにくい環境は、患者や入居者にとっても居心地の悪い環境。だからこそ、どちらにとっても幸せをもたらすことができる環境づくりは急務だといえるだろう。

img37 img38

今回の展示会では、どの企業も、いかに現場を働きやすく、快適なものに変えてゆくかという課題に向きあっていた。革新的な技術力で人手不足を解決するシステム。最適な治療を施すための最先端の医療器具。職員のやる気とモチベーションを上げる空間デザイン。地域や入居者に信頼される施設になるには。その答えは『HOSPEXJapan』に参加すれば、たちどころに“実感”できるのではないだろうか。しかし、医療・福祉はつくづくサービス業であると感じた。それも命のかかった、とても重いサービス業だ。支えられる側、支える側は常に一心同体なのだ。

img39 img40

『HOSPEX Japan 2015』
■会期/2015年11月25日〜27日
■会場/東京ビッグサイト
■来場者数/2万2,071人(3日間計)
■出展者数/386

ページの先頭へ
< /body> < /html>