ようこそ、展示会!ビジネス・産業振興のために

一般社団法人日本能率協会
2015/11/18

日本の農業に明日はあるのか。 新時代の芽吹きを『アグロ・イノベーション2015』で発見。

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TPP、天候の変化、後継者問題…。どうもここ数年、日本の農業はあまり見通しがよくない。また、消費者の動向も極端だ。1円でも安い野菜を求める層がいるかと思えば、オーガニックのブランド野菜にこだわる層がいる。
まさに転換期を迎えている日本の農業。そんな折、『アグロ・イノベーション2015』は開催された。一体、日本の農業はどこへ行こうとしているのか、これからの旗向きを知るには格好の展示会である。
ここでひとつ告白しよう。本展は大まかに分け、“生産”と“流通”の2本の柱を軸に構成されている。会場入りする前、おそらく生産分野はブランド野菜など地域密着のアプローチで、流通分野はICTを活用した運輸テクノロジーなどだろう、とインタビュアーは予想していた。と、わざわざ冒頭に記すのは、お察しの通り。これは完全に誤りだったのである。

テクノ栽培はもはや常識! 味や生産性の向上がこれからのトレンド。

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生産ゾーンに足を入れるとまず、光、光、光のオンパレード。これらは最近スーパーでも見かける工場野菜を栽培するためのLEDライトだ。出展数の多さからも、いかに注目されているか分かる。ところで、工場野菜と聞くとなにを想像するだろう。割高?
いや、消費者にとって価格が安定している工場野菜の方が有難いケースも少なくない。では味は?
そう、太陽の光を浴びていないというだけで、工場野菜はなぜか痩せた味をイメージしてしまうのだ。

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「植物を育てるには2種類の光が必要なんですよ」そう教えてくれたのは化学系企業の担当者。「太陽の光の波長を研究した結果、赤色の光は植物を縦に育て、青色が横に大きくさせることが分かりました。ところが、赤のLEDライトはなかなか開発できなかったのです。それをはじめて完成させたのは、ウチです(笑)」。苦心の結果、生み出されたLEDライトは、栽培する植物に応じて光源色をコントロールできるうえ、微妙な加減も単色ごとの点滅切り替えも可能だ。実際にを試食させてもらうと、お、美味しい! 葉の厚みもしっかりしていて、噛むたび野菜の旨味が楽しめる。味がいい、それに加えて工場野菜は水と肥料のみで栽培されるため無農薬。子供のいる家庭などでも喜ばれる。

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しかし、工場野菜やハウス野菜の栽培は、単に光だけ管理すればいいわけではない。温度、湿度、二酸化炭素濃度といったさまざまな要素が複雑に関連している。大学の研究機関と連動したNPOでは、その解決策を提示していた。センサで各要素を計測し、数値と連動して栽培場所の環境を調整するプラントシステム。なんとこちらが画期的なのは、4億にものぼるデータに基づき、植物の光合成速度までリアルタイムで測定してしまうこと。まだ研究段階だそうだが、展開されれば個々の生体に合わせ適切に栽培でき、収穫量の増加や収穫時期の調整が可能になる。

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センサ系技術はすでに実装可能なものもたくさん紹介されていた。監視カメラなどを開発するメーカーでは、栽培に関する各種データをスマホやタブレットなどで確認できるシステムを開発。動画配信のパッケージと組み合わせれば、労働環境の改善や人件費の削減も狙える。

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ここで、インタビュアーが仰天したテクノロジーを紹介しよう。展示会でひときわ目立つ、巨大な試験管のような装置。これは稲をはじめ日々誕生する新種の栽培条件を測定するためのもの。最適な条件(こちらの企業では“レシピ”と呼んでいる)が判明すれば、世界あらゆる場所のプラントにデータを転送できる。さらに、こちらでは“薬用野菜”の研究も行っていた。たとえば製造後あまり日持ちがしないワクチンなどを、長期保存できる作物に蓄積させる技術である。これが完成すれば、医療機関や体制が整っていない発展途上国にも、より多くのワクチンを輸送できる。経口摂取のメリットもあるだろう。

生産分野で話を聞いて回ると、食糧難対策や労働状況の改善といった、世界規模の課題に取り組んでいると痛感する。生産物の輸入・輸出だけが農業のグローバル化ではないのだ。今後ますます、日本は未来型農業のプラットフォームを世界に発信していくだろう。

農業をもっと儲かる産業に! 就農者の経営に直結する製品・サービスたち。

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工場野菜も働き手の負担を軽減するひとつの方法ではあるが、すべての農家がプラントを建てるわけにはいかない。これまでの農業を発展させていくことも重要だ。
農業機器を製造するメーカーでは、就農者の声に寄りそい、“儲かる”農業をめざす製品を展開していた。たとえば、電動式の草刈り機は、住宅地に隣接する畑でも使用しやすい静音設計。これなら夏の暑さを避け、早朝の作業がしやすくなる。ブドウ農家など長時間腕を上げる就農者に向けたアシストスーツも面白い。この製品を待ちわびていた女性や高齢者は多いのではないだろうか。

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もちろん、ピンポイントな製品ばかりでない。田畑の状況と作業日誌をクラウド化し、農業経営と連携するサービスでは、今後トラクターなど農耕機との連動も狙っている。ボタンひとつで農作業が終わる日もそう遠くないのだ。

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こちらで特に勉強になったのは、“生産ロスをおさえる”という発想。生産物を切らず赤外線で測定する糖度計のほか、多少キズがついても付加価値をつけた売り物に変える食品乾燥機やアイスクリームメーカーなど、就農者の収入に直結するアイデアの数々。思わず拍手。

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従来からある製品の改良は日本メーカーの得意分野。ホッチキスなどでおなじみの機器メーカーでは、より軽く、握りやすく改良した電動剪定ばさみを発見。安全装置を工夫することで狭い場所でも作業しやすくなったという。試させてもらったところ、軽くレバーを引くだけでスパン!と切れる。ほかにもスムーズな動作で疲れを軽減できる袋づめ器など、使用者想いの設計は世界中で愛されている。

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最新のテクノロジーとの融合も進んでいた。作物の生育状況や気象情報といった衛星データを分析し、広大な農場をポイントごとにデジタルで管理するシステムは北海道・十勝エリアですでに導入されている。作業記録の入力も簡単で、コスト管理を徹底した効率的農業経営が可能となった。以前レポートした『気象・環境テクノロジー展』のサービスはこうした形で展開しているのかと、改めて納得。

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つまり、天候に左右される運任せの農業は終焉を迎えようとしている。昔と比べずいぶん新規就農しやすくなっただろう。そういった新人向けに、まだ準備段階ではあるが、面白いサービスも発見した。ウェブ上のテレビ電話や掲示板を使い、農作物の病気や害虫被害などを動画や写真を見ながらベテランに相談できる就農支援システムだ。今後、JAなどと連携して展開をめざしていく。

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新しい戦力として女性就農者の活躍も著しい。もはや、農家の嫁なんてことばは死語。女性目線のパッケージや品種改良は、いち消費者としても大いに期待している。こうした女性就農者に喜ばれそうだったのは、オシャレな作業ウェア。日焼け防止、泥ハネ対策といった機能性は変えずデザイン性を向上した。実は農作業に限定されず、キャンプやフェスなどでも重宝されている。

こうした製品・サービスを見ていると、つらい・利益の薄い・汚れるといった農業のマイナスイメージが誤りだったと気づく。就農者が気持ちよく働ける環境は、美味しい野菜に直結する。農業ビジネスの健全化は、消費者側も支援していかなくてはならない。

青果物の消費量にV字回復を! フルーツ分野から施策を探る。

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就農者の努力に反して、残念ながら青果物の消費量は減少傾向にある。なにか手だてはないのだろうか。それに対する取り組みが特に色濃く表れていたのは、本展と同時開催された『ワールドフルーツEXPO』ゾーンであった。
ひときわ人を集めていたのはデザイン性豊かにカットしていく、フルーツアートのブース。運良くデモンストレーションを見ることができた。立派なメロンを取り出したかと思うと、器用にナイフを差し込む。みずみずしい果汁が溢れ出すが、手際良く片付けるため作業台の上は清潔なまま。「果物は少しキズがついただけで規格外になります。けれど、アートフルーツにすれば、これまで市場に出回れなかったものも立派な商品として生まれ変わります」そんな担当者の声に、ついキレイなもの、形の良いものばかり選んで購入してしまう自分を反省。こうした消費者のワガママに経営を圧迫される生産者はどれほどいるのだろう。

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そんなことを考えているうちに、あっという間にハートモチーフのカットが完成。このアートフルーツは結婚式などパーティーのほか、大手スーパーのカタログギフトとしても採用されている。フルーツの新しい可能性のひとつだ。

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また、生産者側でも積極的に魅力的な加工品づくりに取り組んでいる。街をあげてリンゴの消費量アップをめざす長野ブースでは、ジュースにシードル、ドレッシングなどを紹介。素材にこだわった製品はどれも味が良く、贈り物にも最適だ。

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さて、こうした加工品を眺めていると『FOODEX JAPAN』を連想してしまう。出展者にとってこのふたつは何が違うのだろう。「我々は生産者ですから、食品業者とは別のこだわりがあります。そこをまず、同業者に知ってもらいたい。そしてアイデアを交わしながら、業界を盛り上げたいんです」。そんな明確な回答をもらえたのはイチジクを中心に生産する農家さん。ここで作られる色鮮やかな果物のピューレは製菓店などに人気だ。また、ジャムにはすべてイチジクが入っており、天然の甘みがやわらかい。試食させてもらったが、個人的にはワインなどのお酒にも合うと感じた。

しかし、生産者が「どうしたら食べてもらえるか」と苦心している現状は胸が痛い。どんなに安全で美味しい青果が収穫されていても、消費されなくては意味がないのだ。加工品という解決策に頼るだけでなく、毎日の食卓に野菜や果物を1品目増やすだけでも貢献できるはずだと思った。

売るだけなんてもう古い! 流通・小売からはじまる地域活性化への取り組み。

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さて、いよいよ流通に関してだが、この分野は大手小売企業のブースが先進性あふれ、非常に分かりやすかった。まず結論を述べよう。流通・小売は、単に物を仕入れて販売するビジネスでなくなった。生産者、自治体、消費者、つまり国民すべての暮らしを向上させる究極のサービスにチャレンジしようとしている。

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プライベートブランドということばが定着して久しいが、こちらは自社ブランドを消費者の嗜好に合わせ4つに分けて展開している。本展ではその中でも、栽培方法や衛生管理、環境配慮にこだわったブランドを大々的に紹介していた。このブランドの野菜などはすべてQRコードがつけられ、生産者情報が確認できるようになっている。

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また、全国20カ所に直営農場も運営している。提携・直営どちらも安全な野菜づくりにこだわっており、品質に自信あり。流通経路が確立されているから全国に配送できますね、そうインタビュアーが感想を告げると「いえ、全国に出荷する野菜もありますが、なるべく生産場所の近くで販売しています」と驚きの回答。大手こそ、率先して地産地消に取り組んでいるのだ!

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さらに各自治体との連携も活発だった。その土地ごとの特産品を次世代へ継承すべく、ブランド野菜の開発にも力を入れている。会場にいくつも紹介されていたが、特に目を引いたのはヘチマのように細長い『宿儺(すくな)かぼちゃ』。岐阜県飛騨高山の特産品で、日本書紀に登場する農業の指導者・両面宿儺から名付けられたという。こうした消費者が気になるネーミングも生産者とともに考えている。

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ほかにも系列グループの結婚相談所を活用した就農者の婚活支援など、そこまでやるのか! と驚くほど、地域振興に向けた取り組みが盛んだった。

もちろん、ここで紹介した事例は大手だから出来ることも多い。しかし、流通・小売業界は地域を見据え、個々の幸福追求に舵を切った。その姿勢から、日本の農業はまだまだこれからだ!と力強く背中を押された気がする。

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興味深い展示にあふれた会場。あれもこれもと足を運ぶうち、取材時間は大幅にオーバー。実は時間があればセミナーにもじっくり参加したかったところ。会場3カ所に設置されたセミナーステージではバイオテクノロジーや就農者支援制度など、各界の第一人者から最新情報が聞けた。どの回も満員で来場者から好評を博したことを付け加えておく。

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会場内ではJMAの担当者とも顔を合わすことができた。多岐にわたるブースを管理し、運営するのはなかなか骨が折れる仕事だと思うが、実に達成感に満ちた表情。農業という、確実に人の役に立つ産業の発展に携わるとこういう顔ができるのだろうか。

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そう。農業は日本のみならず、グローバルな観点からも、今後ますます発展すべき産業。日本らしいテクノロジーとおもいやりは、これからの世界の農業の軸となるだろう。苦労も多いだろうが、生産者はじめ農業ビジネスに関わるすべての人にぜひ頑張ってもらいたい。そして、消費者諸君、もっとたくさん野菜や果物を食べよう!

『アグロ・イノベーション2015/ワールドフルーツEXPO』
■会期/2015年11月18日〜20日
■会場/東京ビッグサイト
■来場者数/1万6968人(3日間計)
■出展者数/139(230ブース)

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